送信を押した三秒後に、画面を上から下まで読み返す。
誤字ないよな。重くないよな。この絵文字、寒くないか。 親指が勝手にスクロールして、また同じ文を読んでる。
……で、返信が来ないまま二十分。
これ、二十四歳の俺の毎晩。恥ずかしいけど本当の話。当時の自分に会えるなら、スマホを取り上げて、まず深呼吸させたい。
検索した人が本当に知りたいこと
このキーワード、二方向から叩かれてる。
女性側。この人のLINE、なんか独特なんだけど、これって慣れてないってこと?下心がないのか、それとも単に不器用なのか。判定したい。
男性側。自分のLINEがバレてるんじゃないか、という不安。あと、どこを直せばいいのかという実務的な話。
どっちにも要るのは、あるあるリストじゃなくて、なぜその癖が出るのかの説明。理由がわかれば女性側は判断できるし、男性側は直せる。俺はスカウトを五年やって、後輩のスマホ画面を数えきれないほど覗いてきた。そこで見えたものを書く。
文面に出る癖、まずは見た目でわかるやつ
長さが釣り合ってない
向こうが三行、こっちが十二行。
これがいちばん多い。慣れてない男は、丁寧に返すことが誠実さだと思ってる。だから相手の話題を全部拾って、全部にコメントする。結果、量が倍以上になる。
受け取る側からすると、返信の作業量が跳ね上がる。次から返事を書くのに気合いが要るようになって、じわじわ間隔が空いていく。
俺が後輩に最初に直させるのはここ。相手の文字数の八割まで。それ以上書かない。内容じゃなく分量で調整するだけで、やり取りの寿命が伸びる。
語尾が固いまま、いつまでも変わらない
十往復目でまだ、そうなんですね、ありがとうございます、が並んでる。
丁寧さを崩すタイミングがわからないんだよ。崩して馴れ馴れしいと思われるのが怖い。だから安全側に張り付いたまま動けない。
相手からしたら、いつまでも距離が縮まらない相手。悪い人じゃないけど進展しない、という位置に固定される。
崩し方は簡単で、相手が敬語を外した回の次から一段だけ落とす。全部タメ口にしなくていい。語尾を一つ変えるだけ。そうなんですね、を、へえそうなんだ、にする。それだけで空気が動く。
絵文字と句読点の使い方が独特
やたら「。」で切る。一文ごとに改行する。もしくは絵文字が一切ない。
逆に、突然どこかで覚えた顔文字が一個だけ混ざる。統一されてない。
これは相手の温度に合わせる感覚が育ってないから起きる。慣れてる人は、相手が絵文字を使うかどうかを見て自分の量を決めてる。無意識に。
やることは一つだけ。相手の直近三通を見て、絵文字の数を数える。それより一つ少なく。多いほうに寄せると軽く見られるから、少ないほうに合わせるのが安全。
内容に出る癖。ここからが本題
質問が尋問になる
好きな食べ物は?休みの日は何してるの?どこ住み?
一通に質問が二つ以上入ってて、しかも自分の話が一切ない。
本人は会話を続けようとしてる。相手にとっては面接。返すたびに情報を渡すだけで、こっちのことは何も入ってこない。
慣れてる男は、質問の前に自分の答えを置く。俺は休みの日ずっと家にいるタイプなんだけど、みたいな。自分を先に開いてから聞く。この順番が逆になってるだけで、印象がまるで変わる。
会話を終わらせるのが怖くて、無理やり続ける
話題が尽きたのに、なんとかつなごうとして脈絡のない質問を投げる。
ところで、から始まるやつ。あれ、たいてい相手にバレてる。
終わらせられないのは、切れたら二度とつながらないと思ってるから。実際は逆で、きれいに終わったやり取りのほうが次を始めやすい。
おやすみ、で切っていい。既読だけで終わっていい。毎日続けなきゃいけないルールなんてどこにもないんだよ。
何もない日に、何もない用件を送る
おはよう。今日も一日頑張ろうね。
用件ゼロのメッセージが定期的に来る。これ、慣れてない男の代表格。
送る側は接触の回数を増やしたい。受け取る側は返す内容がなくて困る。返信のしようがない文って、優しい人ほど負担になる。
既読と未読に、行動が引っ張られる
既読がついたのに返事が来ない。そこから三十分、他のことが手につかない。
そのうち、大丈夫?とか、忙しいよね、ごめん、みたいな追撃が飛ぶ。ここで一気に崩れる。
俺もやった。二十四のとき、返信がない相手に、あ、変なこと言ったかも、と送った。送った瞬間に後悔した。喉のあたりが冷たくなる感覚、まだ覚えてる。
そのまま返信は来なかった。当たり前だよ。相手は普通に仕事してただけなのに、こっちが勝手に事件を作った。
追撃は、不安の解消をお願いする行為。相手に感情の面倒を見させてる。これをやると、恋愛の相手じゃなく世話の対象になる。
褒めの数が多すぎる
写真に対して、かわいい、綺麗、すごい。会話の端々に賞賛が混ざる。
好意の表明としてやってるんだけど、量が増えるほど価値が落ちる。三回目からは相手も反応に困る。ありがとう、しか返せない。
一日に一つ。多くて二つ。それ以上は自分の不安を埋めるための行為になってる。
自虐で保険をかける
俺なんかつまらないでしょ。こんな話してごめんね。
送る前に予防線を張る癖。断られたときのダメージを減らすための保険。
これが厄介なのは、相手に否定させる作業を押し付けてること。そんなことないよ、と言わせるためのセリフになってる。何度か続くと、相手の中で疲れる人に分類される。
現場で見た二つの話
三行に削っただけで返信が戻った後輩
スカウト時代の後輩。連絡先を取るのは上手いのに、そこから全滅する男がいた。
画面を見せてもらって理由がすぐわかった。一通が長い。しかも重い。相手の言葉を全部引用して、それぞれに感想を書いてる。
俺が言ったのは一つ。三行以内。それだけ守れ。
そいつが渋々やり始めて、二週間くらいで変わった。返信の速度が上がった。会う約束が取れるようになった。
内容を良くしたわけじゃない。減らしただけ。中身より、相手に返しやすさを渡すほうが効く。
質問の前に自分の話を置いた男
もう一人、完全に尋問型だった後輩がいた。
こっちも修正は一つだけ。質問する前に自分の答えを先に書け、と。
好きな音楽は?が、俺最近ずっと同じアルバム聴いてて飽きないんだけど、そういうのある?に変わった。
返信が長くなった。相手のほうから質問が返ってくるようになった。
会話って、情報の交換じゃなくて交互に開示する遊びなんだよ。片方が聞くだけになると、途端に作業になる。
女性側へ。慣れてないことは欠点じゃない
判定より、その先を見るべき
慣れてないLINEを見て、この人ないな、と切る前に一つだけ。
文面の下手さは、その人の誠実さや長期的な相性とほとんど関係ない。会話が上手い男が全員いい相手かというと、俺の見てきた範囲では、まったくそんなことはなかった。むしろ逆の場面のほうが多かったな。
見るなら、指摘したあとに直すかどうか。長いよ、と一度言って、次から短くなる人は学習できる人。変わらない人は、こっちの快適さより自分の不安を優先してる。
面倒に感じたら、そう言っていい
返しにくい、と伝えるのは冷たさじゃない。慣れてない男は、指摘されないと一生気づかない。俺も言われるまで気づかなかった側の人間だから、これは断言できる。
直したい男へ、優先順位を一つだけ
全部直そうとすると何もできなくなる。
最初にやるのは分量。相手より短く。これだけ。
絵文字も語尾も、そのあとでいい。長さを合わせるだけで、返信率は目に見えて変わる。俺の後輩たちが全員そうだった。
あと、送信後に読み返すのをやめること。読み返しても文面は変わらないし、不安が育つだけ。送ったら画面を伏せる。物理的に。
俺は二十四の頃、それができなくて何度も自爆した。今も完全には抜けてない。ただ、伏せる時間だけは長くなった。
慣れてないのは、単に回数が足りてないだけ。文面の癖は、送った数だけ薄れていく。……とか言いつつ、この前も送信直後に読み返してたけどね。ま、そんなもんだよ。

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