自分の声を録画で聞くのって、拷問だろ。
スカウトの練習で、先輩に撮られたことがある。二分の映像。声のダサさで一回死んで、そのあと画面の中の自分の右手に気づいた。
鼻。口元。また鼻。顎。
数えたら十四回。二分で十四回だぜ。喋ってる内容なんて誰も聞いてない。あんな手つきの男に名刺を渡されて受け取る子がいたら、その子の方が心配だよ。
耳が熱くなって、その日は先輩の顔をまともに見られなかった。
顔を触る行為には、たしかに心理が出る。ただ、ネットに転がってる読み方はかなり雑でね。嘘のサインという説が広まりすぎてる。あれ、現場だとほとんど外れる。
触る回数が増える理由は、嘘より処理落ち
ここを直しておかないと、全部の解釈がずれる。
嘘をついてる時より、追いつめられてる時に出る
顔への接触が増えるのは、頭の中で処理が渋滞してる場面。
想定外の質問が来た。返す言葉を探してる。感情が動いたのに表に出したくない。こういう時に手が上がる。嘘をつく人も追いつめられるから触るけど、原因は嘘そのものじゃなく負荷の方なんだ。
嘘の判定に使おうとすると、真面目に悩んでる人まで疑うことになる。これで人間関係を壊した人、たぶん結構いる。
自分をなだめるための、自己接触
心理の分野では自己接触と呼ばれてる動き。自分の体に触れて緊張を下げる、動物としての機能。
赤ん坊が指をしゃぶるのと構造は同じ。大人になると社会的に許される場所が減って、顔に集中するというだけの話でね。だから触ってる本人には自覚がまるでない。俺も映像を見るまで知らなかった。
一回では何も読めない。まず平常時の回数を見る
これが肝。同じ動作でも、その人の標準がどこにあるかで意味が変わる。
普段から始終顔を触ってる人が触っても、情報はゼロ。三十分まったく触らなかった人が急に三回触ったら、そこで針が振れてる。単発の仕草を辞書で引くのは無意味で、見るべきは平常値からのズレなんだよ。
触る場所が違えば、中身も違う
大雑把だけど、部位ごとに傾向がある。俺の経験の範囲で書く。
鼻と口元は、言いかけて止めた合図
口を塞ぐ方向の動きは、出かかった言葉を押し戻してる時に出やすい。
本音が喉まで来て、飲み込んだ。その直後に手が上がる。ここを見つけたら、こっちは急がず黙って待つ。待つと、七割くらいの確率でその後に本音が出てくる。喋って埋めると、飲み込まれたまま終わる。
顎とこめかみは、考えてる最中
これは緊張じゃなく思考。まだ結論が出てない状態。
判断を求めてる場面でこれが出たら、詰めない方がいい。返事を急がせると、その場しのぎの答えが返ってくる。
首の後ろと耳は、居心地が悪い
襟足を触る、耳たぶをいじる。この二つが出たら、話題か場所のどちらかが合ってない。
俺はこれを空調の警告灯みたいに扱ってた。出た瞬間に話題を切り替える。理由を聞いたりしない。聞くと居心地の悪さが倍になるから。
男が自覚すべきなのは、自分の手の方
読む技術より先に、こっちの手が何を発信してるか。ここを放置してる男が多すぎる。
緊張は顔じゃなく手に出る。相手はそこを見てる
表情はある程度作れる。手は作れない。
女の子は言語化しないけど、視界の端でしっかり見てる。喋りが上手いのに信用されない男って、たいてい手が落ち着いてない。内容と手つきが食い違ってると、人は手の方を信じるんだよ。
触る回数が増えた瞬間、主導権が移る
会話の主導権って、話す量じゃなく落ち着きの差で決まる。
こっちの手が動き出した時点で、相手は上に立つ。本人にそのつもりがなくてもね。逆に、相手が触り始めたのにこっちが動かないでいると、場の重心が寄ってくる。地味だけど、この差はでかい。
座る前に、手の置き場所を決めておく
対策は単純。テーブルに両手を出す。グラスを持つ。ポケットに入れない。
俺は録画を見た翌日から、席についたら先に両手を出す癖をつけた。手が塞がってれば顔に行けない。精神論で治そうとするより、物理的に封じた方が早い。
女性が顔を触った時、こっちは何を読むか
同じ動作でも、読む前に消しておくべき可能性がある。
乾燥とメイクの線を、先に潰す
これを飛ばして脈ありに直結させる記事、多すぎ。
口元を触ったのはリップが気になっただけかもしれない。前髪を直したのは風で崩れたから。冬場は特に、乾燥で顔を触る回数が跳ね上がる。全部を心理で説明しようとすると、都合のいい読み方に落ちる。
髪と耳は、意識してる時に出やすい
そのうえで残る傾向として、髪を耳にかける動きと耳たぶへの接触は、意識してる相手の前で増えることがある。
ただし単発では判断しない。さっき書いた通り、その人の標準と比べる。話し始めてから十分間で一度も触らなかった子が、こっちが距離を詰めた途端に髪を触り出したら、そこに情報がある。
口元を隠したら、その先を待て
女の子が口元に手をやったら、言うかどうか迷ってる。
ここで質問を重ねると閉じる。黙って、視線を少し外して、待つ。視線を外すのがコツでね。見つめたまま待つと圧になる。二秒か三秒、グラスの方を見てるくらいがちょうどいい。
相手の顔に手を伸ばして、一瞬で終わった夜
もう一つの読み方の話もしておく。男が女性の顔に触る側の話。
二十代半ば、いい雰囲気だと思い込んで、髪についた何かを取るふりで顔の横に手を伸ばした。相手の顎が一センチ引いた。
それだけ。声も出さなかったし、怒りもしなかった。ただ一センチ引いて、そのあと会話は続いたけど、もう別の空気になってた。帰りの電車で吊り革を握りながら、あの一センチを何度も再生してた。
顔は距離の最後の場所
肩、腕、手。物理的な距離には順番がある。顔はその一番奥にある。
途中を全部飛ばして最後に手を出したら、驚かれて当然だろ。あれは合図を読み違えたんじゃなく、順番を無視した。読解の失敗じゃなく手続きの失敗だった、と気づくのに数年かかった。
判定を自分に有利へ倒すな
触っていい空気は存在する。ただ、その判定をこっちがやる時点で公平じゃない。
特に職場みたいに断りにくい関係だと、相手が動かなかったことを許可と読むのは危ない。動けなかっただけかもしれないから。迷ったら手を出さない。それで失うものは、思ってるより少ない。
手の癖は、直せる
性格の話じゃなくて動作の話だから、変えるのは案外簡単。
撮る。それだけで八割終わる
自分の映像を見るのが一番効く。友達との会話でいいから、一度だけ撮ってみるといい。
俺は十四回だった。数えた時の胃の落ち方は、あんまり思い出したくない。ただ、あの二分がなかったら今も同じ手つきで喋ってたと思う。
消えるまでの期間は、たぶん一ヶ月くらい
意識するだけだと出る。手の置き場所を先に固定すると出なくなる。
俺の場合は三週間くらいで気にならなくなった。個人差はあるだろうけど、一年かかるような話じゃない。
大事な打ち合わせの前は、今でも座る前に両手をテーブルに出す。たまに忘れる。忘れた日は、だいたい話がうまく運ばない。

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