昨日どうだった、と聞いたら、面白かったけど疲れた、と返ってきた。 その子はスマホをいじりながら、もう別の話を始めてた。次はないな、と横で聞いてて分かった。
これ、スカウトをやってた頃に何十回も聞いた感想なんだよ。翌日の店で、前の晩のデートの話になる。悪口が出るときより、この一言が出たときのほうが致命傷。 楽しませた男が負けてる。この意味が飲み込めるかどうかで、居酒屋デートの結果は変わる。
居酒屋が有利なのは、味でも値段でもない
ざわつきが、沈黙を沈黙にしてくれない
隣のテーブルの笑い声、厨房から飛ぶ声、氷がグラスに当たる音。 店が騒がしいと、会話が三十秒途切れても事故にならない。二人とも黙ったまま焼き鳥を食える。
これがフレンチや静かなバルとの差。あっちは間が空いた瞬間、時計の針まで聞こえてくる。 付き合う前の段階で必要なのは雰囲気じゃなく、緩衝材。居酒屋にはそれが最初から敷いてある。
個室を取った時点で、警戒が一段上がってる
二回目以降なら悪くない。ただ、まだ何者か分かってない男と扉の閉まる部屋に入るのって、相手からするとそこそこの覚悟がいる。 案内された瞬間の、あの一拍の間。あれが出た時点で、その日の会話は一段固くなる。
俺は昔、気を利かせたつもりで個室を予約して、二時間ずっと相手が壁のほうを向いてる状態を作った。おしぼりを畳んだり広げたりしてたな、あの子。 以来、初回はオープンな席しか取ってない。
正面に座るか、九十度で座るか
四人掛けに向かい合わせ。これ、面接なんだよね。 目を合わせる以外の選択肢がなくて、逸らせば逸らしたで気まずい。
L字のカウンターか、テーブルなら角を挟む位置。九十度ずれてるだけで、視線を外す自由が生まれる。相手が自分のタイミングでこっちを向ける状態。 話しやすい男、と言われる奴の何割かは、話し方じゃなく座る位置で得してる。
最初の二十分で、その夜の上限が決まる
おしぼりが来るまでに、自分の話を一つ置く
席についた直後、相手は探ってる。この人はどういうテンションで来るのか。 そこでいきなり質問を投げると、相手が一人で喋る役を背負う。
先に自分の話を軽く一つ差し出す。今日ここに来る前に道に迷った、とか、この店は先輩に教わって以来通ってる、とか。 くだらない内容でいい。喋る順番を先に取るのが効く。差し出された側は、返しやすくなる。
何食べる、は宿題を渡してるのと同じ
メニューを開いて、好きなの頼んで。 親切なつもりで、相手には作業が発生してる。初対面に近い相手の前で、予算も好みも読めない状態で選ぶのって、地味に消耗する。
刺身と唐揚げ、どっちいく。 選択肢を二つに削って渡すだけで、相手の肩が下りる。あとは頼んでから、苦手なものがあれば言って、と一言足す。それで足りる。
質問を三つ続けたら、そこから先は取り調べ
仕事は。休みの日は。兄弟いる。 自分は何も出さずに聞くだけの男。相手の記憶にはインタビュアーとしてしか残らない。
質問一つに対して、自分の話を一つ返す。これを守るだけで、会話の温度がまったく変わる。 盛り上げようとして喋り倒すのも同じ穴。喋った量と好感度は比例しない。
二時間で店を出た男が、次に呼ばれてる
面白かったけど疲れた、が最悪の評価
冒頭の話に戻るけど。 つまらなかった、より、疲れた、のほうが再訪率は低い。つまらないは印象が薄いだけ。疲れたは、この人と会うとコストがかかると記録された状態。
三時間半、笑わせ続けた男が撃沈するのはこれ。相手は帰りの電車でぐったりして、翌日その感覚だけを覚えてる。 腹八分で店を出た男のほうが、あと一杯飲みたかったな、という余韻を残せる。
一番いい流れの途中で、伝票を持つ
盛り上がりのピークを過ぎるまで待たない。まだ上がってる途中で、そろそろ出ようか、と言う。 これができる男は少ない。今いい感じだから、と欲が出るから。
花火を最後まで見ないで帰る感覚に近い。中途半端に切れたほうが、頭に残るんだよ。 名残惜しさは、こっちが作れる。
三次会まで引っ張って、全部潰した夜
二十代半ばの俺の話。 一軒目がやたら噛み合って、調子に乗った。二軒目のバーで日付が変わって、そこからカラオケに行こうと言い出した。
相手は笑って付いてきた。付いてきたから大丈夫だと思ってた。 店を出たのが二時過ぎ。タクシーを拾うとき、彼女がヒールから片足だけ抜いて、アスファルトに素足をつけてたのを見た。あのとき、耳の後ろがカッと熱くなった。
翌日送ったメッセージ、既読はついた。返事は来なかった。 楽しかったのは俺だけ。あの夜のことは今でも、思い出すたびに舌打ちが出る。
酒と会計の扱いで、素が全部漏れる
グラスの減り方に、こっちを合わせる
相手より先に酔うのは論外として。ペースを引っ張るのもよくない。 向こうのグラスが半分になったら、次どうする、と聞く。まだあるうちに次を注文させると、飲まされてる感覚が出る。
烏龍茶に切り替えた瞬間を見逃さないのも大事なとこ。そこで、俺も一杯挟むわ、と合わせられる男は、次も誘われる。
店員への態度は、五秒で読まれてる
注文が遅れたとき、皿が来ないとき。ここで舌打ちする男が一定数いる。 その一瞬を、相手は絶対に見てる。翌日の証言に必ず出てくるのがこの項目だった。
逆に、下げてもらうときに軽く礼を言う、それだけで評価が跳ねる。安いコスパの動作なのに、やってない奴が多すぎ。
全額奢りが正解とは限らない
奢られると次に会うのが重くなる、と言った子がいた。借りができた気がして、断りにくくなるのが嫌だと。 これ、けっこう本音だと思う。
現実的なのは、多めに出す形。合計の七割くらいをこっちが持って、残りを受け取る。相手が財布を出したら、じゃあ千円もらっとく、くらいで受け取っておく。 きれいに割るのも、全部持つのも、それぞれ別のメッセージになる。無言で全部払って何も言わないのが一番読まれない。
勝負が動くのは、店を出てからの十分
改札までの距離が、そのまま持ち時間
店内では料理と酒が間を持たせてくれた。外に出ると何もない。 その十分で、素の会話ができるかどうか。ここで急に無口になる男が本当に多い。
道すがら、今日の店の話を軽く引きずるといい。あの砂肝うまかったな、くらいで足りる。 沈黙が怖いからって、また盛り上げにいくのは逆効果。静かに歩ける関係のほうが、後から効いてくる。
次の約束は、その場で日付まで刺す
また今度、で終わらせた時点で五割は消える。 再来週の金曜あたり空いてる、と数字を出す。決まらなくてもいい。決めようとした事実が残る。
改札の手前で言うのがちょうどいい。相手に逃げ道があるうちに言うと、断られてもお互い傷つかない。
九十分で切り上げた後輩の話
去年、後輩が初デートの相談をしてきた。俺が言ったのは、九十分で出ろ、それだけ。 そいつは律儀に守った。二十時集合、二十一時半に会計。
改札の前で、今日楽しかった、また来週な、とだけ言って背を向けたらしい。 四日後、向こうから連絡が来た。今度はどこ行く、と。
長く一緒にいた時間の量じゃない。相手の中に、まだ喋り足りない、が残ってるかどうか。 勝ち筋はいつもそっち側にある。

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