いいよ、電話しよ。
二十五の俺は椅子から立った。意味もなく部屋を一周した。冷蔵庫を開けて、何も取らずに閉めた。
そして、その夜のうちに全部ぶち壊すんだけどね。
舞い上がる前に、OKの重さを測っておけ
検索した人が確かめたいこと
電話okしてくれる女性、で調べた人が知りたいのは意味じゃない。
これって脈ありなの?という一点。あとは、じゃあ何を話せばいいんだよ、という実務の不安。この二つが同時に来てるから、落ち着かない。
先に言うと、OKが出た事実そのものには、みんなが期待してるほどの情報量がない。判断材料になるのは、OKの出し方と、電話が終わったあとの動き。ここを見ずに喜ぶと、俺と同じ道を歩く。
電話のハードルは、思ってるより低い位置にある
男側の感覚だと、電話は会うことの手前の関門みたいに見える。かなり進んだ、と受け取りがち。
女性側の相場は違う。会うより圧倒的に軽い。移動しない、化粧もいらない、嫌ならすぐ切れる。切る口実も無限にある。眠い、明日早い、家族が起きてきた。
安全な場所から相手を確認できる手段。だからOKは出やすい。
ここを読み違えると、次の一手が全部でかくなる。相手は様子見の一歩を出しただけなのに、こっちは決勝戦のつもりで臨む。温度差が声に出る。
路上に立ってた五年で見えたこと
出る人と出ない人の差は、好意じゃなかった
連絡先を取るのが仕事だった時期がある。取ったあと、実際に電話が繋がるかどうかで結果が決まる。
繋がる人と、繋がらない人。最初は好意の差だと思ってた。
数を積んでわかったのは、決め手が別にあったこと。相手が電話という手段をふだん使ってるかどうか。それだけだった。
友達とも通話する習慣がある人は、初対面に近い相手でも普通に出る。逆に、家族としか電話しない人は、どんなに好意があっても声を出すのを嫌がる。
つまり出てくれたことは、こっちへの評価じゃなく、その人の生活の癖を映してる場合がある。ここを一緒くたにして脈だ何だと騒ぐと、外す。
OKが出やすい条件を数えたら三つ残った
現場で試行錯誤して、残った条件を書いとく。
時間を指定してあること。夜ヒマなときに、じゃ通らない。二十二時に十分だけ、まで書くと通過率が跳ね上がった。
用件があること。話したいというだけの電話は、相手に準備を要求する。この前の店の場所だけ教えたい、みたいな薄い理由でいい。理由がある通話は断られにくいし、断られても互いに傷が浅い。
短いと宣言してあること。長引かない保証があるだけで、心理的な重さがごっそり抜ける。
三つとも、こっちの熱量とは無関係。技術の話。好きの気持ちを盛っても通過率は上がらないんだよ。むしろ下がる。
OKの中身は一種類じゃない
会う前の身元確認として使われてるとき
文字だけの相手と会うのは、女性にとってそれなりの賭け。声を聞くと、判断材料が一気に増える。話し方、間の取り方、笑い方、こっちが遮る癖があるかどうか。
このタイプのOKは、好意というより検査。落ちる可能性が普通にある。
見分け方は、OKが来るまでの往復回数。会う話が出た直後に電話の提案が通ったなら、検査の色が濃い。
そこで熱を出すと落ちる。落ち着いて、普通に喋る。それが正解。
暇の穴埋めに入ってる場合
深夜、しかも向こうから来るパターン。今ヒマ?電話しよ。
嬉しいでしょ。俺も嬉しかった。ただ、これが週に二回、毎回二十三時以降で、会う話は一向に進まない。この形が続いたら、位置は固まってる。
ヒマつぶしの相手が悪いわけじゃない。そこから動く場合もある。ただ、こっちが待ってるだけだと年単位で同じ場所にいることになる。
一度、向こうから来た通話を用事があるからと断ってみるといい。反応で見えるものがある。
本命寄りのOKに出る、地味なサイン
派手なものは出ない。出るのは細かいところ。
日程を向こうが調整してくる。二十二時は無理だけど二十三時なら、みたいなやつ。ここに相手の手間が乗ってる。
終わったあとに、楽しかったと文字で送ってくる。通話中に言うのは社交辞令でも出る。切ったあとにわざわざ打つのは別。
あと、次の話が出る。また今度、じゃなく、来週も、と期間が入ってる。
二時間しゃべって、繋がらなくなった夜
何を間違えたのか
冒頭の続きね。あの日、俺は舞い上がったまま電話に出た。
いける、と思ってた。だから全部出した。自分の仕事の話、昔の失敗談、街で見た変な人の話。相手が笑ってくれるのが嬉しくて、止まらなかった。
気づいたら二時間。時計を見て、うわ、と声が出た。相手はずっと聞き役だった。
それでも切り際、彼女は楽しかったですと言ってくれた。俺は満足して寝た。
翌週、次の電話を提案した。既読だけ。会おうと送った。既読だけ。
しばらくして共通の知人から聞いた。あの人、喋りすぎて疲れる、と言ってたらしい。
耳が熱くなった。スマホを机に置いて、しばらく天井を見てた。二時間、俺は自分の独演会をやってたんだよ。相手にとっては聞くだけの二時間。そりゃ二回目はない。
長く話せた、を成功だと勘違いしてた。相手が使った労力の量を、こっちの手応えと取り違えてた。
十五分で切った後輩が、翌週会えた話
同じ頃、後輩に一つだけ教えたことがある。
タイマーを十五分でかけろ、と。
そいつは律儀にやった。鳴った瞬間、あ、そろそろ切るわ、と自分から言った。相手が、えー、まだ大丈夫だよと返してきたらしい。それでも切った。
三日後に会う約束が取れた。
何が効いたか。物足りない状態で終わったから。人は満腹になったものを、もう一度食べたいとは思わない。
俺は腹いっぱい食わせて、飽きさせた。あいつは半分で皿を下げた。差はそこ。
OKが出たあと、実際にやること
終わりの時間を先に置く
出た直後に一言。二十分くらいで大丈夫?
これで相手の緊張が抜ける。終わりが見えてる会話は、途中で気を張らなくていい。
そして本当にその時間で切る。延長しない。次に繋がるかどうかは、切り際の潔さで決まる部分がでかい。
沈黙が来ても、埋めにいかない
電話で一番やらかすのが、無言の三秒を怖がること。
慌てて話題を放り込むと、脈絡のない質問が続く。相手は面接を受けてる気分になる。
黙っていい。息が聞こえるくらいの間があっても、たいてい相手は気にしてない。焦ってるのはこっちの心臓だけ。
俺はここで何度も自爆した。無音が怖くて、天気の話に飛んだこともある。夜中に。(何やってんだ俺は)
切る前に、次の断片を置く
最後に一つだけ渡す。今度その店の名前送るね、くらいの薄いやつ。
会う約束を取りに行かない。宿題みたいなものを一つ残して切る。それが次の連絡の口実になる。
好意を伝えるのは、この場面じゃない。会ったときに顔を見て言えばいい。声だけの状態で気持ちを渡すと、相手は返事の逃げ場がなくなる。
通らなかったときの話
電話が苦手な人の割合は、想像よりずっと高い
断られると、自分が拒否されたと受け取る。まあ、そうなるよね。
ただ現場感覚だと、電話そのものが無理な人は普通にいる。声を出すのが億劫、間が持たないのが怖い、家に人がいる。理由はいくらでもある。
一度断られたら、二度目は出さない。代わりに文字のやり取りを続けて、会う話に直接いく。電話を経由しないと進めない、というルールはどこにもない。

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