好きな人と話せない理由|緊張せず自然に話せるようになる方法

廊下の向こうから、あの子が歩いてくる。給湯室でも、教室でも、どこでもいい。距離が縮まる。心臓が、どん、どん、って耳の裏で鳴り出す。頭ん中でめちゃくちゃ探すんだよ、何か言うことを。天気?いや寒すぎる。仕事の話?不自然だ。……そうこうしてる間に、彼女はすれ違って、行っちゃった。壁を見つめて、ため息。あー、また何も言えなかった。

他の奴とは、あんなに普通に喋れるのにな。誰とでも笑って話せる。なのに、あの子の前でだけ、口が縫い付けられたみたいになる。

俺は昔スカウトをやってて、見ず知らずの相手に、道端で声をかけ続ける仕事をしてた。だから、あの、声が出なくなる瞬間の正体は、たぶん誰より分かる。その話をする。

目次

他の人とは話せるのに、あの子の前でだけ固まる理由

まずは原因の解剖からだ。ここを分かってないと、小手先の会話テクを覚えたって、本番でまた固まる。

頭の中に、勝手に面接官を座らせてる

好きな相手の前に立つと、あんたの頭の中に、なぜか面接官が現れる。腕組みして、こっちを採点してくる。今の一言、つまんなくなかったか。声が上ずってたぞ。減点だな。……この、勝手に生まれた審査員が、全部の元凶なんだよ。

他の人と喋るときは、この面接官がいない。だから口が軽く動く。でも、好きな相手の前だと、この会話は俺の価値を決める試験だ、っていう設定が、勝手に立ち上がる。そうなると、あんたの意識は、彼女じゃなく、自分に向く。今の俺、変じゃないか。どう見られてる。……その内向きの視線が、口を凍らせる。誰も採点なんかしてない。彼女は、面接官じゃない。ただ、話しかけられるのを待ってるだけの、一人の人間だ。

完璧な一言を探すから、何も出てこない

もう一個の元凶が、これ。何か気の利いたことを言おうとするやつ。面白くて、印象に残って、彼女が笑ってくれるような、完璧な一言。それを、一瞬で探そうとする。

無理だって。人間の頭は、そんなに同時にいろいろ処理できない。緊張で心拍数が上がってて、視線もどうしたらいいか分からなくて、その上で名台詞を検索してたら、そりゃ容量オーバーで固まるに決まってる。パソコンだって、重い処理を一気に走らせたら、画面が固まるだろ。あんたの脳も、同じことが起きてるだけ。何も出てこないのは、頭が悪いからじゃない。要求してるスペックが、高すぎるんだよ。ハードルを、まず下げろ。

会話の前に、話しかける口実そのものを捨てる

じゃあ、どうするか。最初にやるのは、この「話す」っていう行為の定義を、ぶっ壊すことだ。

一段目は「おはよう」だけでいい

あんたは今、いきなり階段の三段目に飛び乗ろうとしてる。盛り上がる会話。笑わせて、印象を残す。……そんなの、助走なしで跳べるわけがない。

一段目は、こうだ。おはよう。お疲れ。それだけ。会話ですらない。ただの、あいさつ。え、そんなの意味あるの、って思うだろ。あるんだよ。目的は、内容じゃない。あの子の前で、自分の声が普通に出る、っていう事実を、体に覚えさせることなんだ。緊張ってのは、慣れてない状況で出る。だから、あの子の前で声を出す、っていう状況を、何度も踏んで、慣れさせる。おはよう、を十回言えるようになった頃には、その次の一言が、驚くほど軽く出るようになってる。急ぐな。まず一段目だ。

内容より、回数。声が出れば勝ちだ

スカウト時代、駆け出しの頃の俺は、最高の第一声を探して、ずっと固まってた。声をかける前に、頭の中で完璧な台本を組もうとして、結局、何百人も見送った。あれ、時間の無駄だったな。

ある日、先輩に言われた。中身なんかどうでもいいから、とりあえず声を出せ、って。で、やってみたら、あっけないもんでな。すいません、の一言が出た瞬間、その後の言葉は、勝手に転がり出てきた。人間の口ってのは、一度動き出すと、割と勝手に動くようにできてるんだ。詰まってたのは、最初のひと押しだけ。だから、狙うのは名台詞じゃない。回数だ。今日は一言、明日も一言。しょうもない内容で、上等。声が出た。それだけで、その日は勝ちなんだよ。

話す内容がない、を解決する現実的な方法

とはいえ、いざ話しかけても、その先が続かない。三秒で沈黙。これも、あるある地獄だよな。

質問一個だけ、持って歩け

原因は単純だ。手ぶらで打席に立ってるから。投げるものを何も持たずに、その場で捻り出そうとするから、詰まる。

だったら、事前に一個だけ、持っとけばいい。彼女に聞きたいこと、たった一つ。それを、ポケットに入れて歩く。この前言ってたあの店、どうだった?とか、休みの日って何してんの?とか。しょうもなくていい。台本を十枚用意する必要はない。一枚だけ。その一個があるだけで、頭の中の検索作業が消えるから、緊張が半分になる。しかも、質問すれば、次に喋るのは彼女だ。あんたが必死に喋り続ける必要も、なくなる。会話の主導権を握るってのは、面白い話をすることじゃなくて、いい質問を一個、投げることなんだよ。

沈黙を、勝手に失敗にするな

で、たいていの人が誤解してるのが、沈黙のこと。会話が途切れると、うわ、やっちまった、って焦る。で、慌てて意味不明なことを口走って、もっと空気を変にする(笑)。心当たり、あるだろ。

でもな、沈黙は、失敗じゃない。会話の、ただの息継ぎだ。数秒黙ったくらいで、あんたの評価は下がらない。むしろ、沈黙に耐えられずにベラベラ喋り出すほうが、必死さが出て、よっぽど落ち着きなく見える。黙ってていい。空白があっても、平気な顔してればいい。その、慌てない態度そのものが、余裕として伝わるんだから。

見た目より、態度より、まず「体」を落ち着かせる

ここまで頭の話をしてきたけど、緊張ってのは、体にも出る。で、体のほうから攻める手も、ちゃんとある。

心臓がバクバクしてるのは、当たり前だと知っておく

彼女の前に立つと、心拍数が上がる。手が汗ばむ。声が震える。……で、多くの人は、この体の反応そのものに、二重にビビる。うわ、緊張してる、それがバレたらどうしよう、って。この、緊張してることへの緊張が、事態を悪化させる。

覚えとけ。その反応は、体が壊れてるんじゃない。大事な相手を前にしたときの、正常な作動だ。むしろ、なんの反応も起きないほうが、そこに気持ちがない証拠だろ。だから、心臓がうるさいのは、そのままでいい。止めようとしなくていい。あと、これは声を大にして言うけど、あんたの緊張は、あんたが思ってるほど相手に見えてない。震えてるつもりの声も、向こうにはほとんど届いてない。自分の内側で起きてる嵐は、外からは、意外なほど静かなんだよ。

深呼吸ひとつと、視線の置き場所

体でできる対策を、二つだけ。一つは、話しかける前に、息を長く吐くこと。吸うより、吐くほうを長く。それだけで、暴れてる心拍が、少し落ち着く。安っぽく聞こえるかもしれないけど、これ、現場でも本当に効いた。

もう一つは、視線だ。目が合わせられない、っていう人。無理に、じっと見つめようとしなくていい。ずっと見られるのも、相手はしんどい。だから、彼女の目のあたりを、ふわっと見て、時々そらす。そのくらいで十分だ。ずっと足元を見て喋るのだけは、避ける。あれは、自信のなさが全身から出てしまうからな。顔を上げて、ふわっと見る。それだけで、印象は全然違う。

話せない自分を、責めるのをやめろ

最後に、いちばん根っこの話をする。ここを直さないと、テクニックをいくら積んでも、また同じ壁にぶつかる。

嫌われるのが怖いんじゃない、失うのが怖いんだ

そもそも、なんでこんなに緊張するのか。他の人には平気なのに、なぜあの子にだけ。答えは、失うのが怖いから、だ。

他の人との会話は、失敗しても何も失わない。でも、好きな人との会話は、下手を打てば、その可能性ごと消えるかもしれない。そう思ってる。だから、一言に人生を賭けたみたいな重みが乗る。この重さが、口を塞ぐんだよ。でもな、ちょっと考えてくれ。何も話さなければ、その可能性は、ゼロのまま何も動かない。失敗して失うのを恐れて、結局、何もしないままゼロを守り続ける。……それ、本当に守れてるか?残るのは、あの日すれ違ったときのため息と、後悔だけだぞ。

完璧じゃない自分のまま、話しかけていい

もう一つ、大きな誤解がある。もっと自信をつけてから、もっと面白い人間になってから、話しかけよう。……そう思ってるうちは、一生、話しかけられない。順番が逆なんだ。

自信は、話せるようになった後に、ついてくる。話しかける前に手に入るもんじゃない。だから、緊張してるまま、口が乾いてるまま、うまく喋れないまま、話しかけていい。というより、少し照れて、たどたどしく話しかけてくる男を、女性はそんなに減点しない。むしろ、めちゃくちゃ滑らかに、完璧に話しかけてくる男のほうを、警戒することだってあるくらいだ。あんたが必死に隠そうとしてる、その不器用さ。あれは、隠すべき欠陥じゃない。あんたが、その子を本気で大事に思ってることの、いちばん分かりやすい証拠なんだよ。

もう一回、あの廊下に戻る。次に彼女が歩いてきたら、名台詞なんて、探さなくていい。頭の中の面接官も、追い出していい。ただ、顔を上げて、おはよう、と言う。それだけ。声が震えてても、目が泳いでても、構わない。

その一言が出た瞬間、あんたが越えたのは、彼女との距離じゃなくて、自分の中の、あの重たい壁のほうなんだ。で、一回越えたら、二回目からは、驚くほど軽くなる。……ま、最初の一回が、いちばんしんどいのは、間違いないけどな。

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