警戒心を解こうとした瞬間に、さらに固まる。
これが路上スカウトを始めた頃の自分が何百回も経験したことだった。声をかけた瞬間から相手の肩が上がる。歩く速度が上がる。目線が逸れる。どうにかしようと言葉を重ねるほど、相手との距離が広がっていく感覚。
(なんで?ちゃんと話してるのに)
スカウトの仕事って、警戒心との戦いみたいなもの。知らない人間が突然声をかけてくる、という状況で相手が警戒するのは当たり前の反応。その当たり前の反応を前提にして、どう動くかを毎日考えてた。
気づいたのが、警戒心は解くものじゃなくて、溶けるもの、ということ。解こうとするから失敗する。
警戒心が生まれる仕組みを理解する
警戒心は相手を守るための本能
女性が知らない男性に警戒するのは、正常な反応。
むしろ警戒しない方がおかしい。見知らぬ人間から何かを求められるかもしれないという状況で、防衛本能が働くのは当たり前。
これを理解してない人が「なんで警戒するんだよ」という発想で動く。その発想が態度に出た瞬間に、相手の警戒心がさらに上がる。警戒してる相手を責めてる感じになるから。
警戒心は解消すべき問題じゃなくて、そこにあって当然のもの。その前提で動けるかどうか。
警戒心は情報不足から来てる
知らないから怖い。情報がないから危険か安全かを判断できない。判断できないから警戒する。
これが警戒心の構造。ということは、安全だという情報が積み重なると、自然に警戒が溶けていく。
焦って警戒を解こうとする必要はない。安全だという情報を少しずつ積み上げていくだけでいい。その積み上げ方が、会話の中でどう出てくるかを話す。
警戒心を解こうとする行動が逆効果になる理由
警戒心を解こうとしてる人の行動って、たいていこれ。
過剰に笑顔を作る、声が明るすぎる、馴れ馴れしい言葉遣い、無理に距離を縮めようとする、早口でたくさん話す。
全部、作ってる感が出る。作ってる感が出ると、何かを隠してる、何かを求めてる、という印象になる。その印象が警戒を強める。
自然じゃない人間のそばにいると、人は無意識に身構える。身構えた状態で警戒が溶けることはない。
警戒心が溶けていく会話の共通点
何も求めていない空気を出せてる
警戒心って、この人は自分に何かを求めてくるかもしれない、という予測から来てる。
その予測を外す状態を作れると、警戒が下がっていく。何も求めてない、ただ話してる、というのが伝わる状態。
スカウト時代に気づいたのが、連絡先を取ることを一回忘れた日の方が、連絡先が取れることが多かった、ということ。数字を意識してる時の声と、意識してない時の声は全然違う。声に目的が乗ってる時、相手はそれを感じ取る。
何かを求めてる空気が消えた時、相手の肩が下がる。
急がない
警戒心が固い状態で、急いで距離を縮めようとすると固まる。
ゆっくり動く人のそばにいると、こっちも焦らなくていいという感覚になる。焦らなくていい感覚は、緊張を解く方向に働く。
路上での立ち話でも、ゆっくり話せてる時の方が相手の反応が良かった。早口で情報を詰め込もうとしてる時は、相手が処理に追いつかなくて疲れてくる。疲れてくると警戒が上がる。
急がないことが、警戒を溶かす上で一番単純で一番効く方法だったりする。
自分の弱い部分を先に出す
完璧に見える人のそばでは、こっちも完璧にしなきゃという緊張が生まれる。
弱い部分を先に見せた人のそばでは、その緊張が解ける。弱みを見せる会話術の記事で書いたこととつながってくる。
「実は方向音痴で今日も迷った」「緊張してます、こういうの苦手で」「料理がまじでできなくて」みたいに、自分の隙を先に見せる。
隙がある人は安全に見える。安全に見えると警戒が下がる。
具体的な会話の中でやること
最初の一言の設計
声をかけた最初の一言で、警戒心のレベルが決まることがある。
「ちょっとすみません」は用件がある感じ。何かを求めてくるかもしれないという警戒が上がりやすい。
「こんにちは」はただの挨拶。用件を明示してないから、警戒が上がりにくい。
最初の一言に、目的や要求の匂いを入れない。ただ存在として近づく感じから始める。
スカウトで一番最初の声かけを変えた時、立ち止まってくれる確率が変わった。「すみません、ちょっとよろしいですか」という最初の一言から、「こんにちは、ちょっといいですか」に変えただけで。謝罪から入らない、というのを前の記事でも書いたけど、謝罪は警戒を高める。
声のトーンと話すペース
これ、言葉の内容よりずっと先に相手に届く情報。
緊張してる声、高くて速い声、力んだ声。これらが警戒を高める方向に働く。
落ち着いた声、少しゆっくりめのペース、力が抜けてる感じの声。これらが警戒を下げる方向に働く。
朝起きてすぐの声じゃなくて、友達と話してる時のリラックスした声のイメージ。その声のトーンで話せてると、相手の体が緩んでくることがある。
視線の使い方
じっと見すぎると怖い。かといって目を逸らしすぎると不自然。
話してる時は適度に外す、相手が話してる時はちゃんと向く。このメリハリが、圧にならない視線の作り方。
相手の目じゃなくて、鼻の付け根あたりを見ると、こっちは目を合わせてる感じが出るけど、ガン見になりにくい。前に書いたことだけど、これは警戒を上げないための視線の実用的な使い方。
相手のテンポに合わせる
相手が静かなら、こっちも静かめに話す。相手がゆっくりなら、こっちもゆっくり。
テンポを合わせることは、同じ空気にいますよ、という非言語のメッセージになってる。テンポが違うまま話してると、どこか噛み合わない感覚が続いて、それが警戒心につながることがある。
合わせることで、この人は安全、という感覚を作れる。
沈黙を埋めようとしない
沈黙が怖くて焦って言葉を詰め込む。その焦りが声に出て、相手の警戒を上げる。
沈黙に耐えられる人のそばにいると、焦らなくていいという安心感が生まれる。その安心感が、警戒を少しずつ溶かしていく。
沈黙が来た時に何もしない、ただそこにいる。この選択肢を持っておくだけで、会話の質が変わる。
警戒心が溶けたサインを読む
体の向きが変わる
最初は体が斜めや横向きだったのに、だんだんこっちに向いてくる。
体の向きって意識してコントロールしにくい。だから体が向いてきた時は、気持ちが向いてきてる証拠に近い。
このサインが出てきたら、会話の深さを少し上げていい段階になってる。
話す量が増える
最初は短い返しだったのに、だんだん長くなってきた。
これも警戒が溶けてきてるサイン。短い返しって、情報を最小限に出してる状態。長い返しは、情報を出してもいい安心感が生まれてきてる状態。
話す量が増えてきたら、聞く方に回る。こっちが話す量を減らして、相手が話せる場を広げてあげる。
笑いが本物になってくる
最初の愛想笑いから、本物の笑いに変わってくる。
前の記事で書いたことだけど、愛想笑いと本物の笑いは目の周りが違う。本物の笑いは目の周りが動く。その変化が出てきた時、警戒が溶けてきてる。
本物の笑いが出た後って、会話の温度が一段上がることが多い。そのタイミングで少し踏み込んでいく。
こっちへの質問が出てきた
相手が自分から質問してきた時。
これが一番分かりやすいサインで、こっちのことを知りたいという気持ちが出てきてる。警戒してる状態では、相手への興味なんて出てこない。質問が来た瞬間は、警戒が相当溶けてる状態。
その質問にちゃんと答える。できれば少し深めに。相手が踏み込んできたから、こっちも同じくらい踏み込んで返す。
スカウト時代の話
路上で一番警戒心が固かった女性の話をする。
声をかけた瞬間から無言で手を払われた。まだ何も言ってないのに。胸のあたりが一瞬締まる感じがした。でもなぜか足が動かなくて、少し距離を置いてそこにいた。
しばらくして「何なんですか」と言ってきた。怒ってるわけじゃなくて、問い詰めてる感じでもなくて、なんで立ってるの、みたいなトーンだった。
「すみません、なんか去れなくて。でも急かしたくないので、邪魔だったら言ってください」って言った。
黙ってた。自分も黙ってた。30秒くらい経って「スカウトですか?」って聞いてきた。そこから10分話した。
あの時に何が起きてたか、今でもはっきりとは分からない。ただ、急がなかったことと、何も求めてない感じを出せたことが、何かを変えたんだと思う。

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